2026年5月、南大西洋を航行中のクルーズ船でハンタウイルスの集団感染が発生し、7名の感染が確認、うち3名が死亡したというニュースが世界中に衝撃を与えました。
ハンタウイルスは、主にネズミなどの齧歯類の排泄物や唾液からヒトに感染するウイルスです。
「自分には関係ない」と思っている方も多いかもしれませんが、家や倉庫にネズミが出る環境では、決して他人事ではありません。
この記事では、ハンタウイルスの基本情報から今回のクルーズ船での発生状況、日本国内での感染リスク、そして具体的な予防対策までを詳しく解説します。
ハンタウイルスとは
ハンタウイルスの基本的な特徴と、感染経路・症状について解説します。
ウイルスの発生源と感染経路
ハンタウイルスは、ネズミなどのげっ歯類が保有するウイルスで、人獣共通感染症の一つです。
感染したネズミの尿・糞・唾液にウイルスが含まれており、それらが乾燥して空気中に舞い上がったほこりを吸い込むことで感染します。
また、汚染された食品や飲料水の摂取、ネズミに直接噛まれることでも感染します。
ウイルスの種類は地域によって異なり、北米・中南米ではシカネズミやピグミーライスラットなど、特定のげっ歯類が自然宿主となっています。
日本国内に生息するネズミはハンタウイルスの主な保有動物とは異なる種類のため、国内での感染リスクは現時点では極めて低いとされています。
ただし、ネズミが侵入した倉庫や農作業場など、排泄物が堆積しやすい環境では注意が必要です。
主な症状と致死率
ハンタウイルス感染症には主に2種類の疾患があり、症状と重症度が異なります。
1.ハンタウイルス肺症候群(HPS):北米・中南米で多く見られ、発熱・筋肉痛・倦怠感から始まり、急速に肺炎・呼吸不全へと進行します。致死率は約40% ~ 50%と非常に高く、集中治療が必要になるケースがほとんどです。
2.腎症候性出血熱(HFRS):ユーラシア大陸で多く見られ、発熱・出血・腎障害を特徴とします。致死率はHPSより低いものの、重症化すると腎不全に至る場合があります。
いずれも特異的な治療薬やワクチンはなく、治療は呼吸・心臓・腎臓などの合併症管理を中心とした対症療法が中心です。
クルーズ船での集団感染
2026年4月から5月にかけて、クルーズ船MVホンディウス号でハンタウイルスの集団感染が発生しました。発生の経緯と現状を詳しく解説します。
発生の経緯と現状
MVホンディウス号は、オランダの企業オーシャンワイド・エクスペディションズが運航するクルーズ船で、2026年4月1日にアルゼンチン最南端の都市ウシュアイアを出港しました。
船には23カ国にわたる約150名の乗客・乗員が乗船しており、日本人乗客1名も含まれていました。
船は南極および南大西洋の複数の孤島を訪れる計画で航行していましたが、航行中に乗客の間でハンタウイルス感染症が発生しました。
WHOはこの集団感染の原因ウイルスが、通常は南米に分布するアンデス株であることを5月6日に確認しています。
2026年5月2日、南大西洋上を航行中のMVホンディウス号におけるハンタウイルス感染症の発生がWHOに報告されました。
死亡者と下船者の状況
最初に感染した疑いがある70歳のオランダ人男性は、4月11日に船内で死亡しました。その後、下船した妻もヨハネスブルグの病院で死亡し、さらにドイツ国籍の乗客1名も死亡しています。
4月24日には約30名が下船しており、そのうちの1名はスイスでハンタウイルス陽性が確認されました。
5月8日時点で、感染者は南アフリカ、オランダ、ドイツ、スイスなど複数の国で確認されており、各国の保健当局が接触者の追跡調査を急いでいます。
WHOは「新型コロナのような大規模な感染拡大が起きる事態は予測しておらず、感染拡大のリスクを裏付ける根拠はない」と強調しています。
人から人への感染はあるか
今回のクルーズ船での感染拡大で特に注目されたのが、アンデス株による人から人への感染の可能性です。
通常のハンタウイルスはネズミなどのげっ歯類からヒトへの一方向の感染(終末感染)であり、人から人へ直接感染することはありません。
しかし今回確認されたアンデス株は、現在知られているハンタウイルス38種の中で唯一、人から人への感染を引き起こすことが知られているウイルスです。
南アフリカのモツォアレディ保健相は「感染は非常に稀で、密接な接触によってのみ発生する」と説明しており、日常的な接触で簡単に感染が広がるウイルスではありません。
ただし、アルゼンチンでは2018年に誕生日パーティーをきっかけとした集団感染が発生し、11名が死亡した事例があります。
このケースでは、トイレに向かう途中でわずか数分接触した相手にまで感染させた「スーパースプレッダー」の事例も確認されています。
WHOは「新型コロナウイルスやインフルエンザとは感染の広がり方が全く異なり、これはパンデミックの始まりではない」と強調しています。
日本国内での感染リスク
今回のクルーズ船での集団感染を受けて、日本国内での感染リスクについて不安を感じた方も多いでしょう。公的機関の見解をもとに解説します。
結論から言えば、日本国内でハンタウイルスに感染するリスクは極めて低いと評価されています。
国立健康危機管理研究機構(JIHS)は2026年5月6日、「日本国内で本事例の原因となったハンタウイルスに感染する可能性は極めて低い」「国内でヒト – ヒト感染により感染拡大する可能性は低い」との公式見解を発表しています。
その根拠は明確です。
ハンタウイルスを保有するシカネズミやピグミーライスラットなどのげっ歯類は日本国内に一切生息していません。
日本に生息するドブネズミやクマネズミはハンタウイルスを保有していないため、国内のネズミから感染するリスクはありません。
ただし、日本国内でも過去にはハンタウイルス感染の報告があります。
1960年代から約10年間にわたって大阪・梅田駅周辺で発生した「梅田熱」では、ドブネズミが媒介するソウルウイルスにより119例の感染が報告されています。
その後、1984年以降は国内での感染報告はありません。
なお、日本のネズミはハンタウイルスは保有していないものの、レプトスピラ症や鼠咬症(そこうしょう)など別の感染症を媒介する可能性があります。
ハンタウイルスに限らず、ネズミの侵入・駆除対策は引き続き重要です。
ハンタウイルスへの具体的な対策
ハンタウイルスに対する特効薬もワクチンも存在しない現在、予防が唯一の防御手段です。
ネズミの侵入を防ぐ方法
ハンタウイルス対策の基本は、ネズミを家に侵入させないことです。
ネズミは幅約6ミリ程度のわずかな隙間からでも侵入できるため、外壁・床下・天井裏の穴や配管周りの隙間を金網や防鼠パテで完全に塞ぐことが重要です。
食品はプラスチックや金属製の密閉容器に保管し、ネズミのエサとなるものを放置しないことが大切です。
生ゴミは蓋つきのゴミ箱に入れ、こまめに処分してください。
なお、超音波グッズはネズミが慣れてしまうため長期的な効果は期待できません。
物理的な侵入口の封鎖が最も確実な対策です。
感染リスクを下げる除菌・清掃方法
長期間使用していなかった倉庫や物置の清掃時は特に注意が必要です。
ネズミの糞や尿が乾燥した場所を掃き掃除したり掃除機をかけたりすると、ウイルスを含む粉塵が空気中に舞い上がり、吸い込む危険があります。
清掃前に必ず塩素系消毒剤(次亜塩素酸ナトリウムなど)を散布して十分に湿らせてから、濡れ拭きで除去してください。
作業時はN95マスク・使い捨て手袋・ゴーグルを着用し、換気を確保した上で行うことをWHOも推奨しています。
日本国内のネズミはハンタウイルスを保有していませんが、サルモネラ菌やレプトスピラ症など別の感染症を媒介するリスクがあるため、ネズミの痕跡を見つけた場合は同様の手順で清掃・除菌を行ってください。
自力での対応が難しい場合や被害が広範囲に及ぶ場合は、専門の害獣駆除業者への依頼を検討してください。
まとめ
ハンタウイルスは、ネズミなどのげっ歯類の排泄物から感染する致死率の高いウイルスです。
2026年5月に南大西洋を航行中のクルーズ船MVホンディウス号で発生した集団感染では、7名の感染が確認され、うち3名が死亡するという深刻な事態となりました。
今回の感染はアンデス株によるもので、ハンタウイルス38種の中で唯一人から人への感染が確認されている種類です。
ただし、WHOは「新型コロナやインフルエンザのように広く伝播するウイルスではなく、パンデミックの始まりではない」と明確に述べています。
日本国内では、ハンタウイルスを保有するシカネズミやピグミーライスラットが生息していないため、国内感染リスクは極めて低いと国立健康危機管理研究機構(JIHS)が公式見解を示しています。
ただし、日本のネズミもサルモネラ菌やレプトスピラ症など別の感染症を媒介するリスクがあります。
ネズミの侵入経路の封鎖、食品の密閉保管、糞尿が疑われる場所の適切な清掃・除菌を徹底することが、ハンタウイルスを含む感染症全般の予防につながります。
自力での対応が難しい場合は、専門の害獣駆除業者への相談をおすすめします。